「昔見た星空は、もっときれいだった…。」そんな話を聞くことが時々あります。夜でもあちこちで明かりが照らされている現代では、身近に美しい夜空を眺めることができる場所もなければ、その余裕や心のゆとりすらないのかもしれません。そのため、昔を知らない人は、星空を見ることができると、歓声を上げることもあります。そこで今回は、今でこそ筆者の生活の一部のようになっている摩周湖での星空観察に魅せられるまでを振り返りつつ、湖の上空に広がる夜空を一挙にご紹介していきます。
☆彡引き継ぎ
初めて摩周湖で夜空を眺めたのは、2010年だったと記憶しています。もともと自然が好きな私は、夜空を見ることはしていたものの、当時は主な星座すら分からず、ただ夜空を見上げていました。そんな時、たまたま参加することとなったのが川湯温泉から出発している「摩周湖星紀行」という企画でした。
大勢で夜空を眺めるのは初めてで、バスで連れていかれるがままに夜の摩周湖に移動していきます。ガイドがバスの中から様々な案内をしてくれてはいるものの、見られるのかどうかもわからないので、話もろくに聞かずに摩周湖に向かいます。しかし、現地に到着して仰いだ夜空には、満天に星が広がっていて、自然と息を飲み、そのままガイドの案内に引き込まれていったことを今でも覚えています。
その後すぐには摩周湖での星空観察にのめり込むことはなく、2回目に摩周湖で星を眺めたのは2012年になってから。そこからは、摩周湖へ夜空を見にいくチャンスがあればガイドに付いて行って、夜空を何度も眺めに行きました。
そして、2013年。摩周湖での夜空を眺め続ける役目を引き継ぐことになります。試行錯誤を繰り返しているうちに、あっという間に1年が過ぎ、2014年からは徐々にインプットする心構えや術を身に着けていきました。気が付くと、摩周湖で見られる夜空に引き込まれ、摩周湖で見られる夜空には様々なパターンがあることが分かってきました。
☆彡月明かりで見える湖面
まず、夜空を眺める時に気になるのは、夜空に月があるかどうかです。月の出入りの時刻は毎日30分~1時間ぐらいずつずれていきます。第1、第3展望台から摩周湖の方角を見ると東のため、月の出入りの時刻を調べることによって、摩周湖が順光で照らされているのか、逆光で照らされているのかを把握することができます。月の位置によって見られる景色は様々なため、月の有無は必ず調べておきたいポイントです。
そもそも月夜の場合、空は月明りに照らされてしまい、暗い星が見られなくなるため、星の数は減ってしまいます。しかし、その明かりは夜の大地を明るく照らしてくれるため、街明かりではない夜景をとてもきれいに見ることができます。
月の光が摩周湖に順光で降り注ぐ場合、湖面が星夜よりも浮き立ち、吸い込まれてしまいそうな雰囲気を醸し出します。
逆光の場合、湖の対岸から月が昇ってくる様子を観察することができます。月の出から1時間ほどの時間に訪れることができると、光が湖面に映りこんでいるのを見ることができます。その時、風で湖面が揺らめいていると、映りこんだ月明りは、まるでミルクを垂らしたかのような白い筋となって、対岸までの橋を作ります。月が高く昇ってしまうと消えてしまう貴重な景色です。
また、薄い霞のような雲が空を覆うと、月暈が月の周囲にかかることもあります。無風だと、湖面は凪となって月を映し出しますが、月暈の光は淡く、暈が湖面に映ることはありません。この幻想的な景色は言うこと無しのようですが、デメリットもあり、月は明るく、薄い雲もかかっているということは、星はほとんど見つけることができないのが、月暈がかかる夜となります。
最後に番外編を上げるとすれば、月夜の雲海でしょうか。明るい月の光は夜の雲海を陰影含めて本当にダイナミックに見せてくれます。雲海にもいくつかパターンがありますが、そのどれをも月明りのおかげで観賞することができます。月夜の摩周湖に通っていると、シーズンに数回しかない機会に巡り合えることもあります。
☆彡広い夜空と天文現象
摩周・屈斜路カルデラの外輪山の麓に町があるため、生活圏近くで夜空を眺めると、山や森が邪魔をして広い夜空を見上げることができません。しかし、摩周湖の展望台は外輪山の一部に整備されているため、周囲をぐるりと見渡すことができます。
また、見上げるような標高の高い山が近くにないため、東北海道全域が晴れ渡っていると、360度、目線から星を見つけることができるほど、広い夜空を眺めることができます。その利点は、広い星空を見ることができるのはもちろんなのですが、それ以上に、流れ星が見つけやすいことではないでしょうか。
摩周湖では流星群が見られる可能性が最も高いのは冬となります。もちろん夏に流星群もありますが、摩周湖自体が霧に包まれてしまうことが大変多いため、流星群を見られる可能性がとても低いのが残念でなりません。それに対して三大流星群の一つふたご座流星群は、30分の間に20個以上の流れ星が流れることもあります。
☆彡季節によって違う星空
星は北極星を中心にして、半時計周りに回って見えます。第1、第3展望台から摩周湖の方角を向くと東だということは、摩周湖の対岸から次の季節の星が次々に昇ってきます。そのため、うしかい座が昇ってきたから、もう春だね。とか、こと座が昇ってきたからもう夏だね。など、雪解けが例年より早かったり、遅かったりしても、夜空を眺めることで、一足早く毎年同じタイミングで季節の移り変わりを感じることができます。では、そもそも季節によってどのように星座が見られるのでしょうか。
春で有名なのは北斗七星と、うしかい座のアルクトゥルス、おとめ座のスピカを含めた春の大曲線と、しし座のデネボラを含めた春の大三角です。季節を通して、摩周湖を向いて左上に北極星があり、北斗七星は北極星から東にあるため、摩周湖上空に大曲線の弧が描かれています。5月のゴールデンウィーク過ぎまで山には雪も残っているため、残雪明かりで湖もほのかに見ることができます。
夏に見たいのは言わずと知れた天の川です。気温が低く霞の少ない夜だと、地平線近くまで霞のように見える淡い天の川を見ることができます。フィルムカメラでの写真と違いデジタルの時代となり、長時間で露光して光の情報を一枚の写真に収めることができるようになったので、天の川がとても美しく写せるようになりました。しかし、人間の目は一瞬の光を認識しているに過ぎないため、どれだけ目を凝らしても白い霞のような、ぼんやりとした筋にしか見えません。ぜひ、天の川のイメージを間違えることなく、自分の目で天の川を見ることが大事だと思います。
明るい星である一等星が少ないのが秋の夜空です。天の川が上空まで移動してくると、秋の星座は摩周岳の上に昇ってきます。星座を探すのが難しい季節ですが、星座ごとのギリシャ神話が大きなストーリーを展開しているので、事前にギリシャ神話を読んでから、当てはまる星座を探しだすことができると星を眺めるのが面白くなってきます。
一年の中で一番空気が澄むのが冬です。冬は全天に21個ある一等星のうち7個も散らばっているので、ダイナミックな夜空を観察することができます。時に、星を眺めるにはいつが一番いい季節ですか?と聞かれることもありますが、見られる星座は季節によって異なるので、どのような条件でどのような星空を見たいのかで、いい季節は違ってくるのではないかと思っています。
☆彡番外編
今回は摩周湖での夜空に焦点を当ててきました。この他にも、無風で湖が凪となり星を映し込む夜、雲の合間だけ星が見られる夜、足元には雲海、上空には満天の星空となる夜、人工衛星が飛び交う夜、染まる朝焼けに消え始める夜空など、訪れる時期や季節、気象条件などで見ることができる夜空は本当に多様です。もちろん眺め続けなければ、こんなにも多くの景色を見ることはできません。特に夏には条件が悪い日の方が多いですが、珍しい現象が見られた時や、満天の星空を見られた時の喜びは大きいものとなります。だからこそ、摩周での夜空をこれからも私は見続けるのでしょう。
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