周囲を海に囲まれている日本は山間や盆地など様々な場所で雲海が見られる国であると言えます。そしてその発生条件などを押さえておけば雲海の有名どころではなくても、意外と身近な場所でポイントを見つけることができるかもしれません。摩周・屈斜路エリアも例外ではなく春~秋にかけて雲海が発生することが多くなる場所の一つですが、その条件を見て様々な場所でトライしてみてくださいね。
そもそも霧と雲海の違い
雲も含めて、霧と雲海は全く同じ現象ですが、私たちがいる場所によって呼び方を変えているのが、雲、霧、雲海です。
低地から上を見上げた時に見られるのが、「雲」、
峠を登っていき雲の中に突入すると、「霧」、
そのまま登っていき霧の上へ突き抜けることができると、「雲海」と私たちは呼びます。
飛行機に乗った時、離陸する前の「雲」、離陸後、雲に入ると「霧」、雲の上空に出た時の「雲海」を思い浮かべれば分かりやすいでしょう。
しかし、陸上では飛行機のように高度を大きく変えることはできないため、標高の低い雲が立ち込めている時に峠へ登った時にだけ雲海を観賞することができる可能性が高くなります。私はその標高が低い雲を霧や雲海の表現の一つとして「うんかい雲」と呼んでいます。
摩周・屈斜路エリアでは、どこにうんかい雲が発生するのか
そもそもこの、うんかい雲は、状態がいい時は、オホーツク方面や根釧台地含め、道東全域で発生します。
しかし、上述のように雲の上へ抜けることができなければ雲海として認識することができません。道東では知床の山々や斜里岳、阿寒の山々、摩周・屈斜路カルデラの外輪山など中央から北東にかけてにのみ峠や山がありますが、山は登山をしなければならないため、車でアクセスすることができる摩周・屈斜路カルデラの外輪山の展望台は雲海ポイントとして気軽に雲海を楽しむことができる絶好の場所なのです。
雲海の種類と発生パターン
雲海の種類はその発生条件によりいくつかのパターンがあると言われています。ただ、摩周・屈斜路カルデラでは、それらが複合されて雲海になって見られることが多く、細かく分けて見る事は難しいため、ここでは2パターンに分けていきたいと思います。
移流霧により発生
夏は、暖かい湿った空気が太平洋上で霧となり、南風に乗って流れてきます。そしてカルデラ外輪山内部に流れ込んでくることで雲海となります。これが、私の言う「うんかい雲」です。
流れてきた霧は摩周カルデラにぶつかり、標高が高いとそのまま摩周湖を「霧の摩周湖」へと変貌させていきます。また、標高が低いと外輪山を乗り越えてくる様子が滝のように見えることから地元では、その瞬間の霧を「滝霧」なんて呼ぶ人もいます。
屈斜路カルデラに霧が流れ込んでくる場合は、外輪山の欠けた場所から霧が流れ込んできてカルデラ内部でせき止められ雲海となります。
基本、霧は太平洋上から南風に乗って釧路湿原上空を通過しカルデラ内部に流れて来ることがほとんどですが、たまにオホーツク海で発生した霧が北風に乗って、外輪山を乗り越えて流れ込んでくることもあります。
蒸発霧・放射霧により発生
雲海は「うんかい雲」が立ち込めている時にだけ見られるわけではありません。
昼間に温められた湖沼、河川から蒸発した水分が、夜の間に冷たい空気で冷やされ霧になります。また、夜間の放射冷却で冷やされた地面が空気中の蒸気を冷やすことで霧になります。これらは「朝霧」とも呼ばれ、地表や湖面すれすれに霧が立ち込めるため、この時も峠に登っていけば雲海になっています。
蒸発霧と放射霧は同時に発生することでカルデラ内部全体が雲海に包まれていきますが、どちらか一方の霧しか発生していないと、屈斜路湖上にのみ、大地にのみとどちらかのみで雲海が発生していることもあります。ただ、どちらかというと、蒸発霧だけで発生していることの方が多いでしょうか。
カルデラという地形がもたらす現象
うんかい雲が立ち込める場合でも、朝霧が立ち込める場合でも、摩周・屈斜路エリアでは、カルデラという地形が雲海を発生させるのにとても大きな役割を果たしています。これが近年、摩周・屈斜路カルデラ外輪山が雲海ポイントとして有名になった大きな理由なのではないでしょうか。
早朝の気温は峠の上の方が高く、低地は低い
カルデラはいわゆる盆地のような地形をしています。そこでは風が弱い夜間に何が起こっているのかというと、放射冷却で冷やされた外輪山を取り巻く空気がカルデラの底へと沈んでいっているのです。空気は温められると軽くなり、冷やされると重くなるという性質がこの現象を引き起こしています。
すると、早朝の気温はカルデラの底にある川湯温泉周辺で気温が最も低くなり、ある程度の標高しかない峠へ登っていくと気温が上昇していくという昼間とは逆転の現象が生じます。
そのため、うんかい雲が発生している場合、夜の間に冷やされた空気とともに一晩かけて標高を下げていき、カルデラ内部に立ち込めていくことで早朝までには雲海となります。うんかい雲が発生していない場合、より効果的に引き起こされる放射冷却によって冷やされた地面が霧を、冷やされた空気が湖面の蒸気で霧を発生させて雲海となります。
ここで、注意しなければならないのは、風が強い場合、冷やされた空気は攪拌されてしまいカルデラの底にはたまらないということです。また、空気の冷え込みが足りない場合、うんかい雲の標高が下がり切らなかったり、蒸発霧などが発生しなかったりすることで、雲海が見られる可能性はとても低くなっていきます。
ただし、微風が吹いていると、うんかい雲を波立たせ一定の間隔で霧と雲海を繰り返すこともありますし、一切霧が発生していなかった場所に他所から霧を運んでくることもあります。要は到着した時すぐに見られなくても、諦めるのは、雲海が見られる可能性があるかどうかを見極めてからでも遅くはないということです。
雲海が見られる場所
摩周・屈斜路カルデラのいいところは雲海を様々な標高や角度から見られる展望台が多くあるということです。
津別峠(標高945m)
藻琴峠(藻琴山展望駐車公園 標高430m)
藻琴峠(ハイランド小清水 標高725m)
藻琴山(登山 標高1000m)
美幌峠(標高535m)
摩周第3展望台:屈斜路カルデラ側(標高700m)
摩周第3展望台:摩周カルデラ側(標高700m)
裏摩周展望台(標高585m)
摩周第1展望台(標高550m)
摩周岳(登山:標高857m)
どんな条件だったらどこに向かってみるのがいい?
〇季節:夏 〇昼間の天気:晴れて気温が高い 〇翌朝の予報:晴れて気温が低く、弱い南風で湿度が高い
こんな時は、標高650m付近に移流霧が立ち込めて雲海になっている可能性が高いです。ただ昼間の気温が高すぎると、条件通りでも晴れ渡って全く雲海になっていないこともあります。
- 摩周第3展望台
- 津別峠
- 藻琴峠(ハイランド小清水)
- 藻琴山
- 摩周岳
さらに条件よく雲海が標高を下げてくれると、次の場所でも見られる可能性があります。
- 摩周第1展望台
- 裏摩周展望台
- 藻琴峠(藻琴山展望駐車公園)
〇季節:夏 〇昼間の天気:晴れて気温が高い 〇翌朝の予報:晴れや曇りで気温があまり下がらず弱い南風で、湿度が高い
こんな時は、標高の高い移流霧が立ち込めて雲海になっている可能性が高いです。ただし、藻琴山は屈斜路カルデラの北壁のため、南風で霧が流れてくると、藻琴山にぶつかり乗り越えていくこともあるため、霧に包まれてしまうこともあります。
- 津別峠
- 藻琴山
〇季節:春・秋 〇昼間の天気:晴れて気温が高い 〇翌朝の予報:晴れて気温が低く、弱い北風の時
放射霧・蒸発霧が発生している可能性が高く、標高の低い場所でも雲海が見られます。しかし、特に秋は、夏に暖められた摩周湖から吹上風が吹くことが多いため、屈斜路カルデラには雲海が発生しているのに、摩周カルデラでは雲海が発生していないことが多くなります。
- 美幌峠
- 摩周第3展望台(屈斜路カルデラのみ)
- 藻琴峠(藻琴山展望駐車公園・ハイランド小清水)
- 津別峠
- 藻琴山
番外編
雨の降り始めや雨上がり直前
雨が最も降っている時は雲海になっていることは少ないですが、降り始めや雨上がり直前に気温が上がってくるタイミングでは、雲海になっていることもあります。雨が降っているからと言って諦めてしまうのはもったいないです。
季節が夏で北風が吹いている時
うんかい雲の多くは南から流れてくるものですが、北から流れてくることもあります。見られる雲海にあまり違いはありませんが、普段は太平洋産の雲海のほうが見られることを知っていると、オホーツク海産の雲海が見られた時は少しうれしくなります。
夕方に雲海が見られる時
夏になると、朝雲海になっていて、昼間一度標高が上がり展望台を霧に包みながらそのままとどまり、午後気温が下がってくると、また標高が下がり夕方に雲海が見られることもあります。シーズン中に数度しかない現象なので、それを知っていれば、ただ見れちゃった時よりも断然うれしくなります。ちなみに、さらに稀に一日中津別峠からは雲海が見られる時もあります。
放射蒸発霧、うんかい雲、上空の雲が発生する時
標高の高い藻琴山や津別峠はうんかい雲に飲まれて何も見えていませんが、その下層に蒸発放射霧が発生している場合、標高の低い摩周の展望台のほうが雲海が見えていることもあるため、可能性だけでいうと一番高い場所へ行けば雲海が見られる率は高いが、一概にそこへ行けばいいというわけではないのです。
冬の雲海
夏に有名な雲海ですが、冬でも屈斜路湖からの蒸発霧によって雲海が発生することもあります。そのため、屈斜路湖が全面結氷してしまうと蒸発する水分が無くなって見られなくなるため、結氷前の時期のみの現象となります。冬季は第3展望台や津別峠が閉鎖されてしまい訪れることができなくなってしまうため、美幌峠か藻琴峠から鑑賞することができます。
そして、雲海は消えていく
雲海についてお話してきました。1日見られる時や夕方見られる時もありますが、基本的には早朝が最も見られる可能性が高い時間帯です。早朝に発生した雲海は最後消えて見られなくなっていきます。
雲海が散って消える
風がほとんど吹いていないときは、太陽が昇って気温が上昇し光が雲海に当たり始めると、徐々に霧は蒸発して消えていき跡形も無くなります。私の肌感覚では7時~8時頃には見られなくなりますが、たまに10時~11時くらいまで保っている時もあります。
また気温が上昇すると、冷やされていた空気が暖められるため、カルデラ内部から上昇気流が生まれ、雲海が上空に流れていって消えていくこともあります。
うんかい雲の標高が上がって上空の雲と一つになる
天候があまり芳しくない時などによく起こりますが、早朝に見られた雲海が全体的に徐々に上昇して、上空にあった雲に飲み込まれていき、そのまま天気が悪くなっていくこともあります。
最後に
私が数年かけて見てきた雲海をほとんど出し惜しみすることなくお話してきました。正直に、この記事を見たからと言って摩周屈斜路エリアを訪問している間に雲海に出会える確率がすぐに高くなるとは思えませんが、私はこれだけの情報や経験を元に私が旅行に行くときも早朝に散歩やドライブで雲海を探しに行くと、何だかんだ見れてしまいます。なので、この記事の情報を元に探してみてください。意外と知らない場所に雲海ポイントが隠されているかもしれませんよ。
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